本の宝箱~愛しのbookList~

好きな本を紹介したい!中学から書き溜めた読書録から一押しの本の紹介状。

本紹介ブログ、始めました。

 

はじめまして。彩あい書房と申します。

千葉は松戸の某八柱で、シェア本屋をしています。

シェア本屋のお話は、今度詳しくお話しするとして。

 

こちらのブログは、私が好きな本、誰かに届いてほしい本を紹介しているブログです。

 

中学時代、学校の方針で書くことになった読書記録ノート。あらすじや感想を書くのが好きだったことが功を奏して、20代後半の現在でもそのノートを続けています。

そのストックは1000冊以上!自分でも驚きですが笑

 

その中から、私が大好きで、誰かに読んでほしくて、もしくは一緒に語ってほしくて仕方がない本を厳選してご紹介します。

ジャンルは小説がメインですが、ノンフィクション、辞書や辞典・図鑑なども扱っています。

 

 

 

こんなふうにブログで発信していこうと思うようになったのは、今年の3月、母校を訪ねた折に話の流れで「おすすめの1冊を紹介したらどうか」という話題になったことに起因しています。

ただの話のつなぎであることは私も重々承知していました。

承知しておきながら、実現させてしまった私を笑ってください笑

現在、私は母校の図書室にて、本の紹介記事を週刊で連載しています。

 

発行するに至った理由の一つは、「若者の読書離れ」という言葉。

現代はインターネットやラジオ、テレビ、SNSなど、様々な娯楽にあふれています。

若者が書を捨てたくなる気持ちもわからなくはありません。

しかし、書を捨てるにしても、読書が人生を豊かにするものであるかどうか、そしてエンターテインメントとして相応の値段であるかどうかを体験してみてから決断しても遅くはないのでは、と思ってしまったのです。

何せ図書室は無料で本を借りられるのですから。

 

と、ここまでもっともらしいことを書いてきましたが、結局のところ連載記事発行に至った一番の大きな理由は、私が人に自分のおすすめを紹介することが好きだから、という一言に尽きます。

私に書籍の批評はできません。どんな書籍にも素晴らしい点があり、読者の人生にちょっとしたエッセンスを加えてくれると思っています。そんなうちは、きっとしばらく書評はできないのだと思います。好き嫌いはありますが、それは書評と呼べるものではありません。

でも、自分がすすめたものを、相手も好んでくれる。この喜びの右に出るものは、あまりありません。本の作者でもないのに鼻高々になって、温かい空気が心に流れ込んでくるのです。それを、私の心で煮詰めて語る。至福の時です。

 

つまりは、ただの趣味。

 

小紙を読んで頂いたところで、読書離れの抑制に寄与できるかどうかはわかりません。むしろ影響など与えないのかもしれません。でも、それでもいいんです、趣味ですから。

 

ただ、後輩たちから「面白かった」という声をいただいて、その記事をもう少し広い皆さんに見てもらいたいという自尊心が、自分の中で頭をもたげてきました笑。

そこで、その記事を、こちらでも紹介していこうという次第なのです。

 

長々と書いてきましたが、こういった理由で、このブログは開設されています。

この場所が、書籍のように少しでも読者諸君の人生を豊かにできたなら、それは読書人冥利に尽きます。

 

 

2018.6.5 彩あい書房

 

哀しみと幸せの両立は可能か―――『昨夜のカレー、明日のパン』

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こんばんは。とってもお久しぶりです。

更新滞っていてすみません。ちょっとネット環境の調子が悪くてPCを開けていませんでした。店番のお話もしたいのに…。

なんだか久々すぎて書き方を忘れてしまっていて大丈夫かなと不安ですが、今日も1冊の本のご紹介です。

お仕事に疲れた時、辛い事があった時、ちらりと覗いてほしい本です。

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反する感情を丁寧な筆致で描く

珠玉の人間ドラマ

 

あらすじ

夫、息子を亡くした妻と父、笑顔を忘れたCA、いとこを亡くした大学生、周囲の死を察知できる女性、孤独を抱えた小学生…。

皆、それぞれ哀しみや嘆きを抱えながら、それでもしっかり生きている。哀しみや孤独の狭間に、日常のまにまに、胸の重石を軽くする発見を見つけることができるからだ。なんだ、そうかと、前を向くことができるからだ。

そしてそれは、一瞬垣間見えたかと思うと、雲のようにまた霞んでいく。ふっと現れ、刹那に消える。

「発見」と「ため息」を繰り返して人は、着実に前へと進んでいくのだ――――…。

 

 

 

 

哀しみって、厄介な感情だなあと思います。長いこと自分の中に居座り続け、自分を悲劇のヒロインよろしくさせてしまう。自分の中に居場所を見つけて、その場を居心地の良いように整えてしまう。取り込まれると、幸せになってもいいのだろうかと疑問まで抱いてしまったりもして、強敵だなあといつも思います。

一方幸せも厄介です。自分に居付いてはくれず、四方八方を飛び回って自分から追いかけるしかない。つかんだと思ったらすぐに消え、また追いかける日々が続いていきます。実はすぐ近くにいたという童話も存在するぐらいですから、見つけるのはよほど苦労するのでしょう。

 

こんな相反する2つの感情が、自分の中で両立する―――そんなこと信じられないと思ってしまいますが、でもそれを丁寧な筆致で伝えてくれるのが本書です。

本書に登場する人物たちはみな、どこかしらに哀しみを抱えながら日常を過ごしていきます。哀しみに捕らわれそうになりながら、日常の中に、喜びや幸せを見つけていく。その時に、喜んでもいいんだろうか、幸せを感じてもいいんだろうか、彼らは躊躇しません。哀しくても、つらくても、幸せだなあと感じることはできるのだと、彼らは教えてくれているのかもしれません。

 

最近不謹慎叩きがよく取りざたされていますが、それに疑問の一石を投じるのも、こういった本なのではないかと思っています。
哀しいときに幸せを感じたからといって、元ある哀しみが減るわけではありません。でも逆に、哀しくくても幸せや喜びを感じることはできるのです。

辛いままでも、誰かと笑顔を共有することはできるのかもしれません。だから、不謹慎だからと楽しいことやわくわくすることを自粛ばかりしてしまうのは、違うのかもしれない、と思えるストーリーです。

 

そんな本書、『昨夜のカレー、明日のパン』の魅力は、内容もさることながら、その文章にもあります。作者は数々のドラマを手がける名脚本家、木皿泉。『セクシーボイスアンドロボ』や『やっぱり猫が好き!』『Q10』と聞くと、ご存知の方もも多いかもしれませんね。そんな有名どころのドラマと違うのは、流れる時間です。本書にはゆったりとした時間が流れていて、世界観を心ゆくまで堪能することができます。映像がすぐに思い浮かぶような文章は、そのまま実写化できるのではと考えてしまうほど。…と思っていたら、どうやら某局でドラマ化されていたみたいですね。こちらもおすすめなので、ぜひ。脚本家はもちろん木皿泉です。

人間誰しもがぶつかる感情との付き合い方をテーマに、優しい文章で描く人間ドラマに、浸ってみてはいかがでしょうか。

 

人生、なるようにしかならない――『窓から逃げた100歳老人』

 

こんばんは。彩あい書房です。

あっという間に2018年が半年ぐらいになってしましたね。

年齢を経るごとに時間の経ち方がマッハでしんどいです。

 

 

はてさて、記念すべき第1回の書籍は、ガイブンです。

 

『窓から逃げた100歳老人』(ヨナス・ヨナソン西村書店 )

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この作品にキャッチフレーズをつけるとするなら…

 

世界史と人生の奥深さたるや!

ガイブンの魅力を詰め込んだ最高のエンターテインメント

 

 

 

 

あらすじ

本日晴れて100歳を迎えたアラン・エマヌエル・カールソン。

彼は老人ホームが主催する誕生日パーティーに嫌気が差して、室内履きのまま、部屋の窓から飛び出した!道中チンピラから盗んだ50万クローナ(日本円にして約6億円)と、徐々に増える仲間と共に、アランはスウェーデン国内を逃げ回る。

警察とチンピラに追われるこのアラン、100歳だと侮るなかれ、とんでもない経歴の持ち主なのだ。世界を飛び回りながら各国の要人たちと渡り合い、核兵器発明に寄与した爆弾の専門家なのである。そんな彼が100歳にして起こした前代未聞の珍事件の結末とは?世界中を飛び回った100年間と現在が交差する、最高のコメディー作品。

 

 

 

 

実はガイブンが苦手です。聖書や地理ネタが多くて、何より私にとっての一番のネックは、登場人物の名前が覚えづらいこと!カタカナを覚えるのが苦手なんです…。

今もあらすじのアランのフルネーム間違えてないかなと不安ですが、でもそれらを差し引いても、この物語は面白かった!ガイブンらしい軽妙な文章には訳者の苦労が見て取れますし、ストーリーには大きく分けて2つの魅力があります。

 

第一に、世界史との絶妙な絡み。

アランは、100年の間に文字通り世界中を飛び回ります。スウェーデンからアメリカ、ロシア、カザフスタンに中国、バリ、フランス、北朝鮮…。物語は、現実世界の100年間の情勢をアランの人生と絶妙に絡ませ進んでいきます。スウェーデンの片田舎で生まれたアランが、いつの間にか往年の米大統領ハリー・トルーマンと飲み仲間になっており、いつの間にか毛沢東の妻を救っている…。政治に全く無関心でありながら世界情勢に影響を与える人生に、世界史に興味を持ったり、あるいは「どこまで本当なのか」とインターネットや文献をあさったりしたくなります。

読者の知識欲を掻き立てるという点ではピカイチの作品です。

 

第二の魅力は、本書から人生のなんたるかを知ることができる点です。

アランは母から聞かされた「人生、なるようにしかならない」という言葉を胸に、持ち前の聡明さと悪運で今日まで生き延びてきました。だからこそ彼は、感情に左右されることなく修羅場を潜り抜けることができたのです。

そんな彼が、人生でただ一度だけ、感情を露わにした瞬間がありました。その経験が、彼に一歩を踏み出させ、そして彼をよみがえらせていく…。そのストーリーになんとなく気づきます、人生とはまさにこういうことなのではないか、と。

抒情と叙事、この二つで人生は形成されていきます。そして、社会的に、もしくは周囲から見たらちっぽけな事が、当人にとってはとても大事なことであったりする、そんな天動説的な人生が、本書には描かれています。直情的でなかったアランでさえ、感情に突き動かされることがあるんですから。

 

もちろんコメディーとして読むのも一興の本書ですが(それに耐えうるだけの笑いが本書にはふんだんにちりばめられています)、落ちるとこまで気持ちが落ち込んだ時、本書を手にとってみてください。そこには「人生、なるようにしかならない」と思い続けてきた老人の生き様が、そしてそんな彼でさえ心揺さぶられた瞬間が描かれています。

こんなことで悩んでいる自分が嫌だ、ちっぽけだと思ったことはないでしょうか。本書は、そんな自分を認めてふっと掬ってくれる、そんな小説です。

 

あらかじめ申し上げておきますと、本書は人が死にます。しかも結構クレイジーに死にます。そこだけは留意して頂いて手に取ってみてくださいませ。

 

 

2018.6.10 彩あい書房