人生、なるようにしかならない――『窓から逃げた100歳老人』
こんばんは。彩あい書房です。
あっという間に2018年が半年ぐらいになってしましたね。
年齢を経るごとに時間の経ち方がマッハでしんどいです。
はてさて、記念すべき第1回の書籍は、ガイブンです。
『窓から逃げた100歳老人』(ヨナス・ヨナソン/西村書店 )
この作品にキャッチフレーズをつけるとするなら…
世界史と人生の奥深さたるや!
ガイブンの魅力を詰め込んだ最高のエンターテインメント
あらすじ
本日晴れて100歳を迎えたアラン・エマヌエル・カールソン。
彼は老人ホームが主催する誕生日パーティーに嫌気が差して、室内履きのまま、部屋の窓から飛び出した!道中チンピラから盗んだ50万クローナ(日本円にして約6億円)と、徐々に増える仲間と共に、アランはスウェーデン国内を逃げ回る。
警察とチンピラに追われるこのアラン、100歳だと侮るなかれ、とんでもない経歴の持ち主なのだ。世界を飛び回りながら各国の要人たちと渡り合い、核兵器発明に寄与した爆弾の専門家なのである。そんな彼が100歳にして起こした前代未聞の珍事件の結末とは?世界中を飛び回った100年間と現在が交差する、最高のコメディー作品。
実はガイブンが苦手です。聖書や地理ネタが多くて、何より私にとっての一番のネックは、登場人物の名前が覚えづらいこと!カタカナを覚えるのが苦手なんです…。
今もあらすじのアランのフルネーム間違えてないかなと不安ですが、でもそれらを差し引いても、この物語は面白かった!ガイブンらしい軽妙な文章には訳者の苦労が見て取れますし、ストーリーには大きく分けて2つの魅力があります。
第一に、世界史との絶妙な絡み。
アランは、100年の間に文字通り世界中を飛び回ります。スウェーデンからアメリカ、ロシア、カザフスタンに中国、バリ、フランス、北朝鮮…。物語は、現実世界の100年間の情勢をアランの人生と絶妙に絡ませ進んでいきます。スウェーデンの片田舎で生まれたアランが、いつの間にか往年の米大統領、ハリー・トルーマンと飲み仲間になっており、いつの間にか毛沢東の妻を救っている…。政治に全く無関心でありながら世界情勢に影響を与える人生に、世界史に興味を持ったり、あるいは「どこまで本当なのか」とインターネットや文献をあさったりしたくなります。
読者の知識欲を掻き立てるという点ではピカイチの作品です。
第二の魅力は、本書から人生のなんたるかを知ることができる点です。
アランは母から聞かされた「人生、なるようにしかならない」という言葉を胸に、持ち前の聡明さと悪運で今日まで生き延びてきました。だからこそ彼は、感情に左右されることなく修羅場を潜り抜けることができたのです。
そんな彼が、人生でただ一度だけ、感情を露わにした瞬間がありました。その経験が、彼に一歩を踏み出させ、そして彼をよみがえらせていく…。そのストーリーになんとなく気づきます、人生とはまさにこういうことなのではないか、と。
抒情と叙事、この二つで人生は形成されていきます。そして、社会的に、もしくは周囲から見たらちっぽけな事が、当人にとってはとても大事なことであったりする、そんな天動説的な人生が、本書には描かれています。直情的でなかったアランでさえ、感情に突き動かされることがあるんですから。
もちろんコメディーとして読むのも一興の本書ですが(それに耐えうるだけの笑いが本書にはふんだんにちりばめられています)、落ちるとこまで気持ちが落ち込んだ時、本書を手にとってみてください。そこには「人生、なるようにしかならない」と思い続けてきた老人の生き様が、そしてそんな彼でさえ心揺さぶられた瞬間が描かれています。
こんなことで悩んでいる自分が嫌だ、ちっぽけだと思ったことはないでしょうか。本書は、そんな自分を認めてふっと掬ってくれる、そんな小説です。
あらかじめ申し上げておきますと、本書は人が死にます。しかも結構クレイジーに死にます。そこだけは留意して頂いて手に取ってみてくださいませ。
2018.6.10 彩あい書房